
不動産市場を取り巻く金融環境は、明確な変化の局面を迎えています。本記事を執筆している令和8年9月、長期金利の指標となる新発10年物国債の流通利回りが3.035%に上昇したことが、報じられています。また日本銀行の2026年9月17日、18日に予定されている金融政策決定会合において、政策金利を現在の1.0%から1.25%に引き上げる方針であることが報じられています。
このように長期金利(10年物国債利回り)の上昇が意識される中、投資家や資産家、法人オーナーの皆様から「現在の利回り水準で事業用不動産を購入・保持してよいのか」というご相談をいただく機会が増加しました。
かつての超低金利環境下では、大手企業が長期テナントとして入居する「表面利回り3%台後半」のロードサイド底地や事業用店舗も、安定した運用先として活発に取引されていました。しかし、無リスク資産(といわれる)である国債の利回りが上昇傾向にある現在、不動産固有のリスクに見合った「利回り(リスクプレミアム)」をどう評価すべきかは、非常に重要な課題です。
本記事では、表面利回り3%程度のロードサイド底地案件の構造を整理した上で、弊社が現在取り扱っている「八王子市高倉町・表面利回り5.53%の事業用不動産」を比較対象として取り上げます。単に数字の上下を比較するのではなく、金利、テナント、契約形態、保有コスト、そして将来の出口価格までを含めた「事業用不動産の評価軸」について考察します。
1.「表面利回り3.75%」を見たとき、何を考えるべきか
急に具体的ですが、実は2026年9月に弊社に寄せられた事業用不動産の案件の数字です。この案件は、ある街で大手ドラッグストアが長期で土地を借り受け、その表面利回りが約3.75%なので、買手を探してほしいというものでした。この案件は借地権を設定した土地の上に大手ドラッグストアが店舗建物を建てて使っている、いわゆる「底地」というものです。
一見すると、ナショナルブランドの信用力とロードサイド立地の安定性が魅力的に映ります。しかし、現在の金利環境において「表面3.75%」という数字を目にした際、私自身は「今、このタイミングでは、これは難しい案件だ」と感じました。特に下記の2つの理由によります。
理由その1,表面利回りと実質利回りの差
表面利回りは「年間満室賃料 ÷ 物件価格」で算出された単純な指標です。不動産の物件情報シート(マイソク)に記載される利回りは概ねこの数字です。ここから固定資産税・都市計画税、管理費、各種維持メンテナンスコストを差し引いた「NOI利回り(実質利回り)」を把握しなければ、実際のキャッシュフローは見えてきません。
理由その2,国債利回りとのスプレッド(イールドギャップ)
無リスク資産とされる国債の利回りが現在のように3%程度まで上昇した場合、国債と不動産との利回り差(スプレッド)はわずか「0.75%程度」にとどまります。不動産は、国債とは異なり、流動性リスク、テナント退去リスク、建物・設備の修繕リスク、将来の売却価格変動リスクなどを伴います。これらのリスクを引き受ける対価として「0.75%のスプレッド」が十分と言えるかどうかは、個々の投資家のリスク許容度や資金調達条件に依存します。報道では「3%半ばの利回りもあるのでは!?」と言われていますが、実際に実現するかどうかは別として、そうなってきたときに投資家はより、資金を国債で運用することを考えるようになるのが一般的です。
2.「大手テナントだから安心」だけでは不十分
もちろん、事業用不動産、特にロードサイド物件の投資判断において「テナントが大手企業であること」は強力な安心材料です。しかし、信用力が高いことと、投資価格・利回りが適正であることは別問題として考える必要がありそうです。
契約期間と賃料改定条項
長期の事業用定期借地や定期借家であっても、途中の賃料改定条項がどのように設定されているかが重要です。地代や賃料が固定される契約の場合、インフレや金利が上昇する局面であっても収益を途中で引き上げることができず、実質的なアセット価値が目減りするリスクを孕みます。
これは定期借地(借家)に限りません。経験上、明らかにインフレであるのにも関わらず、なんとなく「値上げすると、新しくテナントを探すのが大変なのでは?」という不安から、更新後の新賃料=20年前と変わらず…というようなケースをみかけます。特にナショナルブランドのテナントが入っている時に「大手さんが入ってくれいるから…」と気兼ねしてしまうというケースは往々にしてあります。
購買力平価を考えると、20年前の10万円の家賃は、現在では約11万3,000円を支払う必要がある計算に理論上はなります。もちろん賃料はインフレだけで計算できるものではなく、近傍同種の代替競争不動産の影響も受けながら変化するものではあります。
契約満了後のシナリオ(出口リスク)
テナント契約が満了した際、更新されるのか、あるいは退去となるのか。ロードサイド店舗の場合、特定のテナントの仕様に最適化された建物や配置になっていることが多く、退去後の次テナント誘致(リテナンティング)には一定の期間と費用を要する場合があります。
3.表面3.75%でも、実際に残る収益はどうなるか
それではここで、話を元に戻し、私の元にやってきた大手ドラッグストアの底地案件の収益構造の内訳について確認してみましょう。底地はあくまでも土地のみを貸し出す形態ですから、建物修繕コストが発生しないというメリットがある一方、以下のような構造的特徴があります。
- 減価償却の活用が限定的:土地は減価償却ができないため、税務上の節税効果(会計上の赤字作成による課税所得の圧縮)は期待できません。
- 保有コストの存在:固定資産税・都市計画税はオーナー負担となります。事業用土地の場合、住宅用地のような課税標準の特例(減額措置)が適用されないため、公租公差の負担感が比較的高くなります。
- 地代設定の水準:土地のみの貸付(底地)の場合、建物付き賃貸に比べて投下資本に対する地代設定が低めになる傾向があります。
したがって、仮に表面利回りが3.75%であった場合、そこから公租公課等の保有コストを差し引いた実質利回り(NOI利回り)は、さらに低い水準に押し下げられます。※個別の税額や維持費は物件ごとに異なるため、必ず固定資産税課税明細書等の実費データに基づく計算が必要です。そしてここに金利上昇が加わると…「国債でもっとくか…」となりがちです。
4.金利上昇局面では「出口」を考える
では、2026年秋現在のような、金利上昇局面ではどのように立ち回るのが最も効率が良いのでしょうか。不動産の資産価値(評価額)は、得られる収益(NOI)と市場が要求する還元利回り(キャップレート)によって大きく左右されます。
物件価格=年間NOI(純収益)/キャップレート(要求利回り)
そして上述のような理由で、政策金利が上昇すると、一般的に投資家が求める還元利回り(キャップレート)も上昇する傾向があります。キャップレートが上昇した場合、物件価格にどのような影響が出るでしょうか。
【計算例:還元利回り(キャップレート)の変化による価格変化】
※分かりやすさを優先した試算であり、実際の取引価格を保証するものではありません。
- 年間NOI(純収益):300万円
- 要求利回り 3.75% の場合:3,000,000 /0.0375 = 8,000万円
- 金利上昇等に伴い、要求利回りが 5.00% に上昇した場合:3,000,000 /0.0500 = 6,000万円
つまり同じ年間純収益(300万円)を生み出す物件であっても、市場の要求利回りが3.75%から5.00%へ1.25%上昇するだけで、計算上の評価額は8,000万円から6,000万円へと、25%(2,000万円)減少する計算になります。
ですから利回りが低い水準(低キャップレート)で取得した物件ほど、金利上昇に伴う利回り変化に対して価格の感応度が高く、売却時の価格下落リスクを意識した出口戦略が求められます。
5.では、表面利回り5.53%の八王子ロードサイドは何が違うのか
比較対象として弊社(楽府株式会社)が現在取り扱っている事業用不動産のデータを提示します。
【物件概要:八王子市高倉町・ロードサイド事業用不動産】
| 項目 | 条件・詳細データ |
| 販売価格 | 3億7,000万円 |
| 表面利回り | 5.53% |
| 年間賃料収入 | 約2,046万円(月額賃料:170.5万円) |
| 所在地 | 東京都八王子市高倉町 |
| 立地特性 | ロードサイド立地 |
| 土地面積 | 約129坪 |
| 建物面積 | 約45坪 |
| 構造・階数 | 鉄骨造平屋建 |
| 築年月 | 令和7年9月 |
| 現況テナント | 有(単一テナント) |
| 契約形態 | 20年間の定期借家契約 |
※数値は弊社マイソクに基づくデータです。
表面利回り3.75%物件との主な構造的違い
- インカムゲイン(収益率)の水準
- 表面利回り5.53%(年間賃料約2,046万円)と、3%台の物件とでは、保有期間中に得られるキャッシュフローの厚みが異なります。高い利回りは、将来の金利上昇や価格下落リスクに対するクッションとして機能します。
- 建物所有と減価償却
- 本物件は土地(約129坪)だけでなく、令和7年9月築の「鉄骨造平屋建物(約45坪)」を所有する形態です。築年数が浅く、建物部分の減価償却費を会計上計上できるため、法人や個人の税務組み立てにおいて選択肢が広がります。
- 契約の長期安定性
- 「20年間の定期借家契約」が締結されており、中長期にわたる賃料収入の予測可能性が確保されています。
なお、八王子でロードサイド物件の活用を考えるのであれば、以前書いたこちらの記事も参考にどうぞ
6.とはいえ5.53%でもリスクがなくなるわけではない
不動産分析において、リスクを無視した評価は成り立ちません。例えば前述の利回り5.53%の本物件においても、以下のような検討・検証ポイントが存在します。
- シングルテナントリスク
- 本物件は単一のテナントによる一括借り上げ形態です。契約期間中は安定しているものの、20年の契約満了時や万が一のテナント事情の変化の際には、収入全般に影響が及びます。
- 定期借家契約終了後のリテナンティングと用途変更
- 契約満了時に再契約に至らなかった場合、同種の事業用テナントを再誘致できるか、あるいは別の用途(物販・飲食・サービス等)へ転用しやすい立地条件を備えているかを検証する必要があります。
- 金利上昇および流動性リスク
- 販売価格3億7,000万円という規模感は、個人投資家層よりも法人・資産家層がターゲットとなります。取引金額が大きくなるほど流動性(売却のしやすさ)は制限されるため、保有期間中の金利上昇に伴う借入返済負担の変化や、売却時のキャップレート動向に配慮が必要です。よくいわれる「出口が大事」というものです。
7.【結論】不動産の利回りは「数字単体」で比較しない
結論として、「表面利回り3%台=抑えめだから危険」「5%台=高いからお得」といった単純な二項対立で不動産を評価することは推奨しません。事業用不動産を評価・選定する際は、以下の視点を総合的に組み合わせて分析することが極めて重要です。具体的には、
- 収益性(表面利回り・NOI利回り)
- 契約安定性(契約形態・期間・中途解約条項)
- 立地・敷地条件(ロードサイドの交通量・視認性・接道状態)
- テナント属性・事業特性
- 保有コスト(公租公課・維持管理費)
- 将来の出口(キャップレート上昇リスク・流動性)
- マクロ金利環境(国債利回り・借入金利動向)
といったところです。ですから、低利回り物件の、しかも底地だから単純にNGというわけではなく、圧倒的な立地と将来の再開発余地があれば合理的な投資となり得ます。同様に、5%台後半の物件であっても、中長期のキャッシュフローと建物の価値を見極めることで、資産ポートフォリオの中で有効な役割を果たします。例えば、減価償却の恩恵を受けながら、20年間保有して、20年後に4億920万円の現金と土地、築20年のまだまだ使える建物が残っているという状態にするというイメージですね。
重要なのは、ご自身の資金調達条件や保有期間、リスク許容度に応じて「バランスの取れた選択」を行うことです。是非、専門家の意見を聞きながら不動産を楽しんでいただければと思います。
⑧ お問い合わせ・ご相談
さて、楽府(がふ)株式会社では、データ・法務・IT・市場分析に基づき、事業用不動産および収益不動産の客観的な評価・提案を行っております。
■ 八王子市近郊の事業用不動産の資料請求・詳細確認
下記よりお気軽にお問い合わせください。売却済みの際はご容赦くださいませ。
■ 現在所有されている事業用不動産の市場価格査定・見直しのご相談
「自社で所有しているロードサイド店舗や事業用不動産が、現在の金利環境でどの程度の価値になるのか確認したい」
「所有物件の利回り・契約条件を比較分析し、今後の長期的な保有・売却方針を検討したい」
購入のご検討だけでなく、資産を所有されている法人オーナー様・地主様からの資産査定や売却・運用に関するご相談も承っております。特に本ブログのように現在の市場分析に基づいたデータとともにお応えできるのが強みかと存じます。
