不動産

理系の大家さん向け「掃除をすると運気が上がる」は本当か

目次

はじめに:「入居が決まったら掃除する」では永遠に入居は決まらない

 不動産のお仕事に携わって長くなりますが、空室を抱える大家さんの多くが共通の考え方をもっています。それは

「入居者が決まってから掃除やリフォームをすればいい」
「清掃費用をかけるより家賃を下げた方が早い」

というものです。

しかし、これは大きな間違いです。「結婚してくれるなら、身だしなみを整えます」という不潔な人が永遠に結婚できないのと同じです。

その不動産と契約するかどうかを決める「デート」こと内見において、内見者は物件に足を踏み入れた瞬間に「住みたいかどうか」を判断します。その第一印象を左右するのが清潔感と整理整頓された環境なのです。

本記事では、UCLA、コネチカット大学の心理学研究やAirbnbの収益データなど、科学的根拠に基づいて「なぜ清掃・整理整頓が家賃収入向上と空室対策に効果的なのか」を徹底解説します。さらに、すぐに実践できる具体的なメソッドまでご紹介します。また空室対策については下記の記事も参考になります。

「部屋を片付けると運が良くなる」という説に科学的根拠はあるか

 私自身、親から「部屋を片付けろ」と叱られていた記憶があります。当時は「うるさいな。今は(ゲームをするのに忙しいから)それどころではない」と思っていました。三つ子の魂百までも。親の教育が良かったのか、大人になった今、身の回りを片付ける習慣ができていると自負するのですが、伴って、良いご縁に恵まれるようになった気がします。私自身は理系脳で、科学的なエビデンスのないスピリチュアルな「運」に人生の判断を委ねることはしないのですが、もし先人のいう「部屋を片付けると運が良くなる」に科学的な根拠があるのであれば、それは事実として利用する方が効率的なわけです。さらにそれが不動産経営に活用できれば言うことありません。そこで、古今東西の文献を拾って調べてみることにしたのです。参考文献は記事末尾に列挙しますので、ご興味ある方はどうぞ。

ストレスホルモン(コルチゾール)への影響

 まず、散らかった環境にいることは生理的ストレス反応を高めるエビデンスがあります。UCLAの研究では、自宅を散らかっている」「雑然としている」と感じている主婦ほど、一日の唾液中コルチゾール(ストレスホルモン)の変動が平坦化し(慢性的ストレス状態にみられる特徴)、抑うつ的な気分の増加も確認されました。また乳児の世話をする若年女性を対象に部屋を通常状態と物が散乱した状態で比較したところ、散らかった環境では身体的ストレス反応が有意に高まったと報告されています。これは環境の乱雑さが視覚的・認知的負荷となり、知らず知らずのうちにストレスを誘発するためと考えられます

 言われてみると、わたしたちは自分の人生の中の統計で、雑然とした地域や家々ほど、家の中から感情的な声が聞こえてくる可能性が高いということを知っています。その原因にはストレスホルモンが大きく関係してそうです。

ワーキングメモリや意思決定能力への影響

 認知神経科学や心理学の知見によれば、散らかった空間は視覚的な「ノイズ」となって集中力や記憶力を妨げるそうです。複数の物が視界に入ることで脳内で情報の競合が起こり、ワーキングメモリ(作業記憶)の容量が削がれてしまいます 。その結果、意思決定に時間がかかったり効率が落ちることも指摘されています。実際、散らかった机で作業すると「必要な物を探すのに手間取る」「他の物に気を取られる」といった現象が起こり、情報処理と判断に余計な負荷がかかります 。一方、整理整頓された環境では脳が本来のタスクに集中しやすくなり、思考がクリアになり生産性も向上することが実験的に確認されています 。ある神経科学系の解説でも、片付いた環境にいる人は散らかった環境の人よりも思考が明瞭で刺激に対するイライラが減り、生産性が上がることが報告されています。

幸福感・自己効力感・生産性向上などの心理的効果

 掃除や片付けにはメンタルヘルス上のプラス効果も数多く報告されています。心理学者や専門団体の分析によれば、実際に掃除や整理を行う行為自体が気分を高め、達成感をもたらすことがわかっています 。散らかった環境は未完了の仕事を常に突きつけるようなもので、不安や苛立ち、混乱といったネガティブ感情を誘発しやすい一方、整理された住空間は心を落ち着かせ幸福感やウェルビーイング(心の健康感)をもたらすと報告されています 。実際、散らかった部屋では混乱・緊張・イライラ感が高まりやすく、反対に片付いた部屋では落ち着きや満足感が得られたという調査結果があります 。

 また、掃除をすることで「環境を自分の掌握下に置いた」という自己効力感(コントロール感覚)が高まることも重要です 。ある研究では、高ストレス時に人が無意識に掃除など反復的な行動に走るのは、「環境を整えることでストレス要因に対抗できている」という安心感を得るためだと示唆しています 。実際、コネチカット大学の調査によれば、ストレス時に人々が掃除に駆られるのは混沌とした状況下で何らかの秩序や支配感を取り戻すためであり 、片付けによって「自分にも環境を良くできる」という感覚が得られるためだと考えられます。この自己効力感の向上は、ストレスや不安の軽減 、疲労感の減少、さらには集中力の改善 といったメンタルヘルス面の向上にもつながります。

片付けと「ポジティブな出来事の発生率」との相関はない。しかし大家業においては別

 ということでいよいよ前半部分の結論ですが、「掃除をすると運気が上がる」「良いことが起きる」といった俗説は多くの文化で語られますが、現時点で片付け行為そのものが直接的に幸運(偶発的な良い出来事)の発生率を高めるという科学的根拠は明確に確認されていません。ポジティブな出来事は多くの場合ランダム性や外的要因に左右されるため、因果関係を実証するのは難しいのが現状です。実際のところ、「掃除で運気アップ」という感覚は、上記のように掃除によってストレスが減り気分や行動が前向きになることで、結果的に良い機会を掴みやすくなるという心理的効果に起因している可能性さえあります。たとえば環境を整えることで集中力や社交性が増せば、仕事や対人面でプラスの結果を生み出しやすくなるでしょう。このような間接的効果を人々が「運が良くなった」と捉えている可能性があります。しかしこの結論から「掃除しても意味がない」という方向にもっていくのは早計です。特に大家業を営む私たちにとっては。

なぜ「清掃・整理整頓」が賃貸経営に効くのか

そもそも「運」「ご縁」とは何か

 わたしたちは一言で「運」や「ご縁」などと言いますが、その成分を分解してみると、単なるラッキーだけではないことに気づきます。運は下記の4つの要素に分けられます。

1.ブラインド型
2.発見型
3.創造型
4.偏向型

ブラインド型とは、完全に制御不能な運です。例えば宝くじのようなものです。大勢の言う「掃除をしても運気なんて上がらない」は、このブラインド型の運のことを言っています。


次に発見型ですが、偶然の要素を含みつつも実際は、外界との接点を増やすことで上げることのできる確率です。たとえば私たちのような事業者は広告を出すことで、外界との接点を増やし、偶然その広告を目にしてくれた人が顧客になる確率を上げています。これは行動量や露出量を増減させてコントロールが可能である運の代表です。

そして創造型。自分の強みや評判が呼び寄せるチャンスと言い換えることができます。たとえばテレビや新聞などのメディア、はたまたSNSやブログ、動画などで専門的な知識を発信することで繁盛している医師や弁護士などの専門家をご覧になったことがあるでしょう。「あの先生は運が良いな~、メディアに登場できるなんて」という、この場合の「運」は決して単なるラッキーではなく、専門知識を深堀りして、それを発信していたからこそつかむことができた運であり、まさに自分で運を創造しているということです。

さらに偏向型。これは専門のスキルがある人にしか見えないチャンスのことです。例えばある眼科医が白内障の検眼用のライトがない東南アジアの医療過疎地にボランティアに行った際に「スマホのライトを検眼用のライトに応用できるのではないか」ということに気づき、それをプロダクト化して世界中の眼科医に売っている例を知っていますが、まさにこのようなことです。その専門の方にしか見えないチャンスに気づく確率。このような例は何かの専門のお仕事をしている方なら枚挙に暇がないでしょう。

 このように例を挙げて考えてみると、多くの人が「運」と呼んでいるものは、私たちビジネスの世界、数字の世界に生きる者にとっては「確率」にほかなりません。「運気が上がる」というのは「確率が上がる」ということ。それは①発見してもらう確率、そして発見してもらって②到来したチャンスをつかむ確率、③つかんだチャンスを保持する確率、これこそが「運」の正体だということができそうです

ストレスホルモンと入居者の印象:科学が証明する清潔環境の威力

 さて、賃貸経営に話を戻しましょう。賃貸経営においても、大勢がいう「運」、私たちの世界でいう「確率」の要素があるはずです。簡単に分解して考えてみると、内見の数を増やすことは、もちろん「発見型」の運そのものです。そして内見があるということは、場所や間取り、設備等の条件という専門性を深堀りした「創造型」の運はほぼ満たしているから見に来ているわけです。そこで次に重要になるのが、「到来したチャンスをつかむ確率」ですその確率を大きく上げるのが、物件の清潔さ・清掃状態というわけです。

 物件の清潔さ・清掃状態は入居希望者の印象を大きく左右し、入居率や成約までのスピードに影響を与えると広く認識されています。事実、内見に来た人は部屋内部の設備だけでなく、共有部分の清掃状況や建物の手入れ具合まで細かくチェックしています 。特に廊下や階段、ごみ置き場など共用部を定期的に清掃して清潔感を維持することが重要であり、こまめな清掃・手入れは内見者の好感度を高め、効果的な空室対策になります。私ども不動産の営業もお客様に「こちらのごみ置き場をご覧ください。ここが物件の良し悪しのバロメーターです」とご説明することが多々あります。

 逆に清掃が行き届かず汚れた印象の物件は敬遠され、成約率が下がる傾向があります。そもそもそのような物件には内見にお連れしても決まらず、経費の無駄になるのでご紹介自体を控える傾向が強まります。これは上述「発見型」の確率を下げることに繋がっています。

 したがって、定期清掃や設備メンテナンスを継続して行い、傷みや汚損があれば早急に対処することは、内見してもらうという発見型のチャンスの確率を増やし、かつ訪れたチャンスをしっかりモノにする確率をも上げる効率の良い仕事であることがわかります。またそのような物件は既に述べた科学的な根拠から、入居者満足度の向上につながり、結果として空室を減らし経営の安定化に寄与します。つまり家主や管理会社にとって清潔な環境維持は基本かつ重要な空室対策と言えます。となると「掃除をしても運気は上がらない」どころか「掃除をしないと運なんて巡ってこない」というのが真理であることが分かります。

(参考)内見者へのストレスホルモンの影響

内見者が物件に入った瞬間、脳は無意識にこの反応を起こします。散らかった、汚れた物件を見ると:

  1. 生理的ストレス反応が高まる
  2. 「ここに住みたくない」という感情が生まれる
  3. 冷静な判断ができなくなる

逆に、清潔で整理整頓された物件では心理的な安心感と好印象を与えることができるのです。

ホテル・民泊データから学ぶ「清潔感」のビジネス効果

一件のレビューで予約率が40パーセント減!Airbnbの衝撃的な収益データ

 宿泊業では清潔さが顧客満足度・収益に直結することが多くの調査で示されています。例えば旅行者を対象とした最新の調査では「宿泊先選びで最も重視する要素は清潔さだ」と回答した人が82%にのぼったとの報告があります 。これは宿泊施設において清潔感が他の立地や価格以上に基本的かつ決定的な条件になっていることを示します。実際、ホテル評価の大手指標でも客室清潔度が満足度スコアに与える影響は年々大きくなっており、2020年には客室清潔度に関する満足度が過去最高を記録しました。

 清掃の行き届いたホテルほど口コミで高評価を得てリピーターが増え、稼働率や客室単価(ADR)の向上につながる傾向があります。一方で清潔さへの不満は顧客レビューで即座に拡散し、ブランドイメージや今後の予約に深刻な悪影響を及ぼします。民泊(Airbnbなど)でも同様に、清掃品質がホストの成績を左右します。Airbnbの内部データによれば、清潔さに関する星評価が5つ星満点の物件は4つ星の類似物件に比べ平均して20%も収入が高く、検索順位も有利になるとされています 。さらに興味深い統計として、清潔さに言及したたった一件の悪いレビューがあるだけで、翌月の予約率が最大40%減少したという分析結果も報告されています 。つまりホストにとって清掃の手抜きは即座に収益減少に直結し得るリスクなのです。

 コロナ禍以降は特に衛生面への要求が厳しくなり、Airbnbでは厳格な清掃プロトコル(エンハンスド・クリーン)を導入して遵守ホストにバッジを付与する施策も行われました 。このプロトコルに従ったホストは予約率が15~20%向上したとのデータもあり 、衛生対策への信頼がゲストの予約行動に影響を与えていることが分かります。総じて、ホテル・民泊業界の統計は「清掃の質向上がレビュー評価と収益を押し上げる」傾向を明確に示しており、清潔な環境提供が競争力の要となっています。

 ここではデータの整っている宿泊業界を例に挙げましたが、賃貸不動産においても同じ傾向があると考えるのは自然ではないでしょうか。

管理物件の美観と賃料設定・賃料上昇率に関する知見

 不動産賃貸において、物件の美観や清潔感は適正賃料や賃料上昇余地にも影響すると考えられています。築年数や立地条件が同程度であれば、内装・共用部が綺麗に維持されている物件ほど高めの賃料設定でも借り手が付きやすい傾向があります。それではどの程度の美観や清潔感が必要でしょうか。

 私たちがオススメしているのは「自分が住みたいと思えるくらい美観にこだわること」です。具体的な事例として、八王子市のある賃貸マンションでは、駅遠い、お墓のお隣という不利な立地条件にも関わらず、室内の汚れや古さを一新して白とグレーを基調に清潔感を強調するリノベーションを実施したところ、入居率が大幅に改善しました 。オーナーは当初、改修後も家賃据え置きを検討していたものの、市場の評価が上がった結果として改修前より月額2千円の家賃アップを実現できました 。たかが2千円、されど2千円。このマンションは25室です。2,000円×25室×12か月=600,000円/年。利回りのうれしい急上昇待ったなしです。

 上記のケースは美観向上が賃料増加に直結した一例です。一般論としても、定期清掃やリフォームで物件の印象を良くしておくことは空室期間の短縮だけでなく、賃料交渉力を高める(高めの賃料でも入居者に選ばれる)効果があります。反対に管理が行き届かず汚れた物件は、賃料を下げざるを得なかったり広告期間が延びる傾向が指摘されています。学術的な大規模調査は限定的ですが、関連する知見として、例えば米国の研究では住宅の清掃・維持状態が主観的な居住満足度や住宅価格に与える影響が確認されています 。日本においても、国土交通省の住宅市場動向分析でリフォーム実施物件の方が成約賃料が高めで推移する傾向が示されており、清潔で魅力的な物件作りが長期的に収益を押し上げる可能性が示唆されています。つまり、物件の清掃・美観への投資は入居付けのスピードや借り手の質を向上させ、結果として賃料収入の最大化につながりうるというのが業界の常識であるということです。

運(確率)を上げるための定期清掃の頻度とチェックリスト

 とはいえ、多忙な業務の中、いったい何から始めれば良いでしょうか。私たちとしては経験から、まずは下記のプランを組むことをお勧めします。

月次清掃(必須項目)

  • [ ] エントランス・廊下の掃除機がけと拭き掃除
  • [ ] 階段の手すりと踊り場の清掃
  • [ ] ゴミ置き場の整理整頓と消毒
  • [ ] 郵便受け周辺の清掃
  • [ ] 外壁・外構の簡易清掃

週次清掃(推奨項目)

  • [ ] 共用部分の照明器具チェック
  • [ ] 植栽の手入れ
  • [ ] 駐車場・駐輪場の整理
  • [ ] エレベーター内の清掃

内見前緊急清掃(当日実施)

  • [ ] 室内の換気(30分前に実施)
  • [ ] 床の掃除機がけと拭き掃除
  • [ ] 水回りの徹底清掃
  • [ ] 窓ガラスの拭き取り
  • [ ] 不要な物の撤去

まとめ:清掃・整理整頓で実現する収益向上

 いかがだったでしょうか。掃除をしても宝くじの当たる確率は変えられませんが、掃除をすれば収入や心の平安につながる素晴らしい「運」や「ご縁」をつかむことができることをご理解いただけたのではないでしょうか。ぜひ今日からの賃貸経営にご活用ください。

参考資料
No place like home: home tours correlate with daily patterns of mood and cortisol - PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19934011/

Cleanliness and Mental Health: What's the Connection?
https://www.verywellmind.com/how-mental-health-and-cleaning-are-connected-5097496

How Clutter Affects Your Brain Health | Nuvance Health
https://www.nuvancehealth.org/health-tips-and-news/how-clutter-affects-your-brain-health

Washing away good and bad luck: People believe it works | ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2011/07/110721095844.htm

アパート空室が多い5つの理由!7つの対策とおすすめのサービスを紹介 | 賃貸経営コラム | 賃貸経営お役立ち情報 | ECHOES(エコーズ)
https://s-echoes.jp/useful-information/column/apartment-vacancy-reason/

Does Airbnb Provide Housekeeping, Cleaning Facts | CR Maids
https://crmaids.com/learn-when-does-airbnb-provide-housekeeping/

Cleanliness, communication drive guest satisfaction: J.D. Power
https://hotelsmag.com/news/cleanliness-communication-drive-guest-satisfaction-j-d-power/

不動産投資の成功は清掃から始まる!アパートの拭き掃除で入居率アップを実現する
https://ameblo.jp/kojipon2525/entry-12871478458.html

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manabito

楽府株式会社 代表取締役/ 宅地建物取引士 / 不動産と文化の融合を目指す不動産会社「楽府株式会社」代表取締役。 宅建士。その他合格・取得資格は行政書士(未登録)/応用情報技術者/第二種電気工事士など。 不動産売却や相続不動産の相談を専門。特に、八王子市・日野市・府中市など多摩地域の不動産売却に精通し、売却成功事例や査定のポイントを分かりやすく解説することが得意。 相続セミナー講師(日野市後援、国分寺市後援、多摩市後援、厚木市後援の相続セミナー実績あり) ブログを通じて、不動産の悩みを抱える皆様に「賢い売却の選択肢」を提供できるよう努めています。

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