
目次
- 1. はじめに:東日本大震災から学ぶ不動産の耐震基準
- 2. 旧耐震基準と新耐震基準の違いとは?
- 3. 旧耐震基準の不動産市場の現状
- 4. 旧耐震基準の不動産、売るべきか?残すべきか?
- 5. 旧耐震物件の売却成功事例
- 6. 旧耐震物件を高く売るための戦略
- 7. まとめ
1. はじめに:東日本大震災から学ぶ不動産の耐震基準
2025年3月11日は、東日本大震災から14年。あの日、東北地方を中心に甚大な被害をもたらした地震と津波は私たちに多くの教訓を残しました。この記事を書いている今日も震災発生時刻の14時46分、全国各地で黙とうが捧げられました。
あの震災では多くの建物が倒壊・損壊しました。2025年の今、データを見てみると1981年の耐震基準改正後に建てられた建物では倒壊リスクが大幅に低下しており、耐震基準の改正が有効であったことをデータから読み取ることができます。
東日本大震災が旧耐震基準の建物に及ぼした影響
東日本大震災(2011年3月11日)は、旧耐震基準(1981年以前)の建物に深刻な被害を与えたことが各種調査報告から明らかになっています。以下に主要な影響をまとめます。
東日本大震災から分かる旧耐震基準の建物の構造的脆弱性
(1) 鉄筋コンクリート造(RC造)
- 旧耐震基準のRC造建物は柱のせん断破壊が多発し、軸力支持能力を失い倒壊・大破した。
- 耐力壁の崩壊や層崩壊も見られ、新耐震基準の建物と比べて被害が大きかった。
- 1981年の耐震基準改正後の建物では被害が大幅に軽減されており、耐震設計の重要性が浮き彫りになった。
(2) 鉄骨造(S造)
- 旧耐震基準の体育館では鉛直ブレース(筋交い)が破断し、構造的な損傷が確認された。
- 接合部の破損や天井の脱落が多く、新耐震基準のS造建物と比べると安全性に劣ることが示された。
(3) 木造建築物
- 旧耐震基準の木造住宅では倒壊率が高く、震度6~7の地域では多数の家屋が全壊。
- 1階部分が崩壊しやすく、屋根瓦の落下や土蔵の漆喰剥離などが多発。
- 接合部が弱く、新耐震基準(1995年の阪神・淡路大震災後の改正基準)以降の建物よりも耐震性が劣っていた。
地盤や津波による影響
(1) 液状化の影響
- 埋立地(千葉県浦安市など)では旧耐震基準の建物が大きく傾斜・沈下し、居住不能となった。
- 杭基礎を採用していない旧耐震基準の建物は特に被害が顕著だった。
(2) 津波による影響
- 津波による被害では、旧耐震基準の木造住宅が流失しやすかった。
- 鉄筋コンクリート造の建物でも、旧耐震基準では開口部や壁が破壊されやすかった。
- 大規模な被害を受けた地域では、構造の種類にかかわらず旧耐震基準の建物の損傷率が高かった。
耐震改修の必要性と今後の課題
- 1981年以前の建築物は耐震補強が急務であり、耐震診断の実施が推奨される。
- 液状化の発生が想定される地域では、杭基礎や地盤改良を行うことが重要。
- 耐震改修を施した建物では被害が軽減される傾向が確認されており、今後の防災対策として改修促進が求められる。
結論
- 旧耐震基準の建物は、地震・津波・液状化に対して極めて脆弱である。
- 1981年の耐震基準改正後に建てられた建物では倒壊リスクが大幅に低下しており、耐震基準の改正が有効であった。
- 旧耐震基準の建物を所有している場合、耐震診断・耐震補強を早急に実施することが必要である。
【参考資料】
国土技術政策総合研究所「2011年東北地方太平洋沖地震 被害調査報告」
👉 旧耐震基準の建物に対する耐震診断と補強が急務であることが再確認された。
地震大国である日本において建物の耐震性は命を守るだけでなく、資産価値を左右する重要な要素です。では旧耐震基準の不動産を所有している方は、今後どのように対応すべきなのでしょうか?
2. 旧耐震基準と新耐震基準の違いとは?
旧耐震基準(1981年以前)vs. 新耐震基準(1981年以降)
1981年(昭和56年)6月1日、建築基準法の改正により耐震基準が大きく変わりました。この日を境に、それ以前の基準を「旧耐震基準」、それ以降の基準を「新耐震基準」と呼びます。
旧耐震基準:
- 震度5程度の地震に対して倒壊しないことを想定
- 水平震度0.2(建物の重さの20%の力)に耐えられる設計
- 柱と梁の接合部の強度規定が甘い
新耐震基準:
- 震度6〜7の大地震でも倒壊・崩壊しないことを想定
- 水平震度0.3〜0.5(建物の重さの30〜50%の力)に耐えられる設計
- 柱と梁の接合部の強度規定が厳格化
- 建物の変形制限が強化
旧耐震基準の建物が抱えるリスク
地震時の倒壊リスク
旧耐震基準の建物は、大地震の際に倒壊する確率が新耐震基準の建物よりも格段に高いとされています。国土交通省の調査によれば、震度6強以上の地震で旧耐震基準の木造住宅が倒壊する確率は約30%、新耐震基準では約10%と言われています。
修繕・耐震補強のコスト
旧耐震基準の建物を現在の基準に適合させるためには、大規模な耐震補強工事が必要になります。一般的な木造住宅の場合、耐震補強工事には100〜300万円程度のコストがかかることが多く、規模や構造によってはさらに高額になることもあります。
保険・融資の制限(住宅ローン・火災保険)
多くの金融機関では、旧耐震基準の物件に対する住宅ローンの審査が厳しくなっています。私たち宅建業者においても、不動産を取得する際には金融機関から「新耐震基準であることが融資の条件です」と言われることが多いです(ただし絶対ではありません)。また2025年現在、一部の火災保険会社では旧耐震基準の物件に対する保険料が割高になったり、場合によっては引受を制限したりするケースもあるようです。
住宅ローン審査の際、旧耐震基準の物件に対して耐震診断の提出が必須かどうかは以下の通りです。
必要な場合: 旧耐震基準の物件で住宅ローン控除や税制優遇を受けるには、耐震基準適合証明書が求められることが多いです。この証明書を取得するには、耐震診断や補強工事が必要になる場合があります。
不要な場合: 一部の金融機関(例: フラット35)では、独自の耐震評価基準を設けているため、耐震診断や耐震基準適合証明書がなくても融資が可能な場合があります。
金融機関や利用する制度により異なるため、事前に確認が必要です。
3. 旧耐震基準の不動産市場の現状
旧耐震基準の物件が市場で敬遠される理由
不動産市場において、旧耐震基準の物件は以下の理由から敬遠される傾向にあります:
- 安全性への懸念: 地震大国日本において、耐震性は購入検討者の最重要項目の一つです。
- 融資の困難さ: 前述のとおり、多くの金融機関が旧耐震基準の物件へのローン審査を厳格化しています。
- 将来的な価値下落: 築年数の経過とともに、さらなる価格下落が予想されます。
- 維持コストの高さ: 老朽化による修繕費用が増加傾向にあります。
売却価格が低くなりがちな傾向
不動産鑑定士協会のデータによれば、同じエリア・同じ広さの物件でも、旧耐震基準の物件は新耐震基準の物件と比較して、平均20〜30%程度価格が低くなる傾向があります。特に2024年から2025年にかけて、この価格差は拡大傾向にあります。
なぜ売却価格が低くなる傾向にあるのか
旧耐震基準の不動産は、新耐震基準の物件に比べて売却価格が10%〜30%程度低下する傾向があるのはなぜでしょうか。それは主に以下の要因によるものです。
①築年数の古さ: 旧耐震基準の物件は築40年以上が多く、建物の老朽化が価格低下に影響するから
②耐震性への懸念: 地震に対する安全性が低いとみなされ、購入者に不安を与えるため需要が減少するから
③税制優遇の対象外: 住宅ローン減税などの優遇制度が利用できないため、購入者にとって経済的負担が増加するから
とはいえ、立地やリフォーム状況によって価格低下率は異なるのが不動産の難しいところです。
それでも買い手がつくケース(立地・土地資産価値など)
旧耐震基準の物件でも、以下のような条件を満たす場合は、依然として高い需要があります。具体的には…
- 一等地の立地: 駅近や生活利便性の高いエリアでは、建物よりも土地の価値が重視されます。
- 広い土地: 建て替えを前提とした場合、十分な広さの土地があれば価値があります。
- 再開発可能エリア: 将来的な再開発が見込まれるエリアでは、古い建物でも土地の潜在価値が評価されます。
- 耐震補強済み: すでに耐震補強がなされている場合は、新耐震基準に近い安全性が確保されています。
4. 旧耐震基準の不動産、売るべきか?残すべきか?
売るべきケースとは?
早期売却でリスクを回避(市場価値が下がる前に)
築年数が40年を超える旧耐震基準の物件は、これからさらに価値が下がる可能性が高いです。特に、2030年に向けて旧耐震基準物件への融資規制がさらに厳しくなるとの見方もあり、早期の売却決断が資産価値を守るカギとなります。
耐震補強費用がかかる場合
耐震診断の結果、大規模な補強工事が必要と判断された場合、その費用と将来的な資産価値を比較検討する必要があります。多くの場合、補強費用を投じても資産価値の上昇につながらないケースが多く、このような場合は売却を検討すべきでしょう。
老朽化で賃貸需要が減少する場合
賃貸物件として運用している場合、旧耐震基準であることを理由に入居者が減少しているなら、収益性の観点から売却を考えるタイミングかもしれません。特に若年層のテナントは耐震性に敏感な傾向があります。
残すべきケースとは?
立地が良く、建て替えやリノベーションが可能な場合
駅近や商業施設へのアクセスが良い立地の場合、建物を取り壊して建て替えるか、大規模リノベーションを行うことで資産価値を大きく向上させることができます。このような場合、売却よりも再投資を検討する価値があります。
耐震補強済みで、資産価値が維持できる場合
すでに耐震補強が完了しており、耐震性能が新耐震基準と同等レベルまで向上している場合は、資産価値の大幅な下落リスクが低減されます。このような物件は、立地条件も良ければ保有を続ける選択肢も有効です。
5. 旧耐震物件の売却成功事例
実際に旧耐震基準の物件を売却したオーナーの事例
事例1: 東京都多摩市の築45年木造戸建て
- 当初の査定額: 3,300万円(土地評価のみで建物評価ほぼゼロ)
- 耐震診断と簡易的な補強工事実施: 費用150万円
- 最終売却価格: 3,800万円
- 成功ポイント: 耐震性能を証明する書類を揃え、若いファミリー層に安心感を提供
事例2: 府中市内の築50年マンション
- 当初の査定額: 1,200万円
- 水回りのみリフォーム: 費用80万円
- 最終売却価格: 1,450万円
- 成功ポイント: 投資用物件として、高利回りを求める投資家にアピール
成功のポイント(価格設定、リフォーム、買い手のターゲット)
これらの成功事例から見えてくるポイントは以下の通りです:
- 適切な価格設定: 旧耐震基準であることを考慮した現実的な価格設定
- 戦略的なリフォーム: 全面改装ではなく、印象を良くする部分的なリフォーム
- ターゲットを絞ったマーケティング: 投資家やDIY好き、建て替え前提の購入者など
- 情報開示の徹底: 耐震診断結果や過去の修繕履歴を積極的に開示し、信頼を獲得
6. 旧耐震物件を高く売るための戦略
戦略①:耐震診断を受ける
耐震診断を実施することで、物件の正確な耐震性能がわかります。仮に耐震性能が予想より良好であれば、それを売却時のアピールポイントにできます。逆に耐震性能が低い場合でも、買主に正確な情報を提供することで信頼関係を築き、スムーズな取引につながります。
耐震診断の費用は5〜15万円程度が一般的ですが、自治体によっては補助制度があるケースも多いので確認しましょう。
戦略②:リフォーム・リノベーションの提案
全面リフォームは費用対効果が低いことが多いですが、キッチンや浴室など水回りの簡易リフォームや、外壁の塗装など、見た目の印象を良くする最小限の投資は効果的です。また、買主に対してリノベーションのプランを提案することで、物件の可能性をイメージしてもらいやすくなります。
戦略③:買取業者の活用
一般の買主を探すのが難しい場合、旧耐震基準・築古物件専門の買取業者への売却も選択肢の一つです。買取価格は市場価格より低くなりますが、確実かつ迅速に現金化できるメリットがあります。複数の買取業者から見積もりを取り、比較することが重要です。
戦略④:土地として売る
建物の価値がほとんどない場合は、「建物解体を前提とした土地売却」として販売戦略を立てることも有効です。この場合、解体費用を考慮した価格設定や、建て替え後のプランを提案することで、付加価値を高めることができます。
解体費用は木造の場合、坪あたり3〜5万円程度が目安となります。100平米の木造住宅であれば、100〜150万円程度の解体費用を想定しておきましょう。
7. まとめ
東日本大震災から14年が経過した今、旧耐震基準の物件をめぐる環境は厳しさを増しています。金融機関の融資姿勢の厳格化、保険料の上昇、若い世代の耐震意識の高まりなど、さまざまな要因が旧耐震基準物件の資産価値に影響を与えています。
しかし適切な戦略とタイミングで対応すれば、資産価値の最大化は可能です。特に重要なのは「早めの判断」です。建物の老朽化が進み、市場環境がさらに厳しくなる前に、専門家のアドバイスを受けながら最適な判断をすることをおすすめします。
- 耐震性能が低く、補強費用が高額な場合 → 早期売却を検討
- 立地が良く、土地の資産価値が高い場合 → 建て替えやリノベーションを検討
- すでに耐震補強済みの場合 → 保有継続も選択肢
いずれにせよ、まずは物件の正確な評価を知ることから始めましょう。無料査定を利用して、現在の市場価値を把握することが第一歩です。
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※本記事は不動産売却の一般的な情報提供を目的としています。特に、不動産取引は個別の状況によって大きく異なるため、必ず専門家(不動産会社、不動産鑑定士、建築士など)に相談するようお勧めいたします。