不動産

生産緑地の2022年問題と相続した生産緑地の売却方法

ハリー&ネリー

先輩先輩、生産緑地の2022年問題ってなあに?

生産緑地の期限が終わって、たくさんの土地が市場に出てくることで不動産の価格が下落するかもしれないという問題のことだよ

福来郎
ハリー&ネリー

だったら、なるべく早く売ってしまった方が良いね!善は急げだ!

ちょっと待って!そうとも限らないよ。納税猶予分の納税を一括でしなきゃいけなかったり、生産緑地ならではの手続きがあるからね。

福来郎
ハリー&ネリー

え~!?じゃあ一体どうすれば良いの?

それじゃ、生産緑地を一体どうするのが良いかレクチャーしていくぞ

福来郎

いまさら聞けない「生産緑地とは?」

街中の、住宅街の真ん中に、突然広大な畑があるのを見かけたことがあるかもしれません。そしてその傍らには「生産緑地」の標識。生産緑地とは、1992(平成4)年に作られた土地制度です。その内容は「市街化区域内の土地を最低30年は農地や緑地として維持することを前提に、税制の優遇を受けられる」というものです。その主な目的は「宅地開発を抑制すること」にあります。

これが生まれた背景としては、そもそも1970年代にさかのぼります。当時、人口増加と、一部地域の都市化が進んだことによって緑地が宅地に転用されるケースが多くみられるようになりました。その結果、住環境が悪化し、土地が地盤保持・保水機能等を失ったことによる災害が多発します。事態を重く見た政府は1972年に「生産緑地法」を制定します。

しかし、産業の発展とそれに伴う人々の働き方は、変わることはありませんでした。ますます都市に人が集まるようになり、土地不足とそれに伴う地価上昇は続きました。そこで1992年に「生産緑地」と「宅地化農地」というシステムに分けることにしました。「生産緑地」とは上述の通り、最低30年は農地や緑地を維持する土地。「宅地化農地」とは、宅地への転用を進める農地です。

平成26年のデータでは、全国13,653.7ヘクタール、東京ドームに換算すると約2,968個にも相当する広大な土地が、生産緑地に指定されています。(※国土交通省「平成26年都市計画現況調査」)

そのほとんどの土地は、三大都市圏(首都圏・中部圏・近畿圏)の、東京、愛知、大阪とその近郊の3県に全体の約8割が集中しています。つまり生産緑地が三大都市圏を中心とした市街化区域を念頭に置いた制度であることが分かります。

生産緑地の税制の優遇とは?

生産緑地には、固定資産税、相続税、贈与税での優遇がなされています。

固定資産税の優遇

大都市圏の市街化区域内にあっても、生産緑地の指定を受けている土地は、一般市街化区域農地の50~100分の1、特定市街化区域農地の200~300分の1、さらに宅地と比較すると数百分の1程度の評価となります。

相続税や贈与税の猶予

相続や遺贈により取得した生産緑地は、そのままその場所で農業を続ける場合に、相続税の一部の納税を猶予されます。通常の評価額と農業投資価格の差額に対する部分が、今すぐに払わなくて良い部分、つまり「納税猶予」となります。

農業投資価格は、「恒久的に農業の用に供されるべき農地として取引される場合に、通常成立すると認められる価格」で、毎年国税庁がホームページ等で公開しています。例えば東京都の令和二年度の農業投資価格は、田で10アール(1,000㎡)当たり900千円、畑で10アール当たり840千円となっています。つまり相続等の際には平米当たり840円~900円をとりあえず納税しておくことになります。

ハリー&ネリー

へぇ~、優遇や猶予があるから、農家の方は長く安心して農業を続けられるんだね

そうだよ。でも猶予についてはあくまで「猶予」であって「免除」ではないんだ。例えば農業を辞めて、生産緑地の規制の網を外れる時には、今まで猶予されてきた税金とその利子税を一緒に払わなきゃならないんだよ

福来郎
ハリー&ネリー

えっ!?そうなの?なんとか「免除」にならないかなぁ

実は、免除になるタイミングというのがあるよ

福来郎

相続税の場合…

(1)特例の適用を受けた農業相続人が死亡する

(2)特例の適用を受けた農業相続人が特例農地等(この特例の適用を受ける農地等をいいます。)の全部を農業の後継者に生前一括贈与する

の場合に免除されます。

贈与税の場合…

(1)受贈者や贈与者のいずれかが死亡した場合

に免除されます。

生産緑地のデメリット

そんなメリットのある生産緑地ですが、その代償は何かというと、やはりその活用法が農地オンリーで縛られることになります。つまり30年間、必ず農地として活用することが義務付けられ、それをしないのであれば、これまで猶予された納税分を全て支払う必要が生じます。

また規則に違反した場合には、市町村長から原状回復命令が出される可能性があります。ただ平成30年9月以降は、農地として貸し付けるということはOKになっています。これについては後述します。

生産緑地の2022年問題とは

2022年に、生産緑地の2022年問題が起こるといわれてきましたが、これは一体何でしょうか。

 生産緑地は1992年に指定されはじめました。生産緑地は、指定の日から30年間、その場所で農業をしなければならないという制度です。そして今年、2022年にその30年が経過するのです。

先ほど学んだように、生産緑地は三大都市圏の市街化区域を念頭においた制度でした。つまりとても便利な場所にあるわけです。そして30年前、そこで農業をすることを決断した地主様が当時40~50歳の働き盛りだったとすると、2022年現在70歳~80歳とかなり高齢化されていることになります。

30年間、他人に譲渡することに厳しい制限がかけられていましたが、これがなくなるのであれば後継者もいないことだし農業を辞めてしまおうと考える方が多くなります。しかし土地が生産緑地でなくなると税の優遇はなくなります。すると市街化区域内の宅地とほぼ同じ評価の納税が必要になります。

また生産緑地ではない土地にすると、これまで猶予されてきた相続税や贈与税を利子税と共に納税しなければならなくなります。したがってこれらの土地を売りに出す人が多くなります。そうなると東京ドーム約3,000個分の大量の土地が市場に出回ることによって、不動産価格が下落するという問題が生まれます。これが「2022年問題」というわけです。

さらに高齢の地主様から生産緑地を相続した方が、一体これをどうすれば良いのかと路頭に迷うという問題も生まれます。特に宅建士や税理士、FPといった、ある程度知識のある方であっても生産緑地の業務に習熟している人は、そう多くはありませんので、地主様は相談先に困るということがあるわけです。

特に遺産を相続した方が農業以外の職に就いている方である場合、一体その土地をどうすればいいのかと悩まれることが多いものと思われます。

生産緑地には、その指定を継続する場合でも解除する場合でも、知っておかなければならないこと、注意の必要なことが多くあります。特に注意すべきは生産緑地法の規制や税の優遇措置の面です。

生産緑地の解除の方法

さて、生産緑地の指定解除ですが、所有者が「しんどくなってきたから農業辞めるわ」というような、所有者の都合によっていつでも解除できるというものではありません。生産緑地の指定解除を受けられるのは以下のような時に限られます

(1)生産緑地の指定から30年が経過する
(2)主たる農業従事者が死亡する
(3)主たる農業従事者が、農業への従事が不可能になる故障をする

ここで出てくる「主たる従事者とは」65歳未満なら年間8割、65歳以上なら年間7割農業に従事している者を指します。

また「農業への従事を不可能にさせる故障とは」生産緑地法施行規則第4条で、両眼の失明、精神の著しい障害、神経系統の機能の著しい障害、胸腹部臓器の機能の著しい障害、上肢若しくは下肢の全部若しくは一部の喪失又はその機能の著しい障害、両手の手指若しくは両足の足指の全部若しくは一部の喪失又はその機能の著しい障害、そしてここに掲げる障害に準ずる障害、1年以上の期間を要する入院その他の事由により農業に従事することができなくなる故障として市町村長が認定したものである決められています。

ご覧になってお分かりのように、かなり重い障害であるということですね。ということで実務では、医師の診断書を提出した上で、農業委員会の面談が行われ、本当に農業への従事が不可能な故障かどうかが判断されることになります。

農業は家族でやることが多いですから、例えばご主人と奥様で一緒に農業をしている場合に、ご主人だけが、病気になってしまったというようなケースでも、奥様も年間7割以上農業に従事していれば、奥様も「主たる農業従事者」とみなされますので、生産緑地の指定解除はできないということになります。

ハリー&ネリー

ぐぬぬ、すごく厳しい縛りだね

そうなんだ。でも対策はあるよ。それは後から話すよ。今はまず解除のやり方の続きからだ

福来郎

さて、上記(1)~(3)(以下「解除要件」)のいずれかに当てはまるのであれば、生産緑地の指定解除をすることができます。解除要件を満たしてから1年以内に、「生産緑地に係る農業の主たる従事者についての証明願(生緑様式第1号)」を農業委員会事務局へ提出します。すると審査が行われ、承認されれば「生産緑地に係る主たる従事者についての証明書」が農業委員会から交付されます。

また、公示日から起算して30年が経過していたり、「生産緑地に係る主たる従事者についての証明書」を受けたりした場合には、土地を購入するよう自治体に求めることができるようになります。

生産緑地の指定を解除する際の手順は

1.生産緑地に係る農業の主たる従事者についての証明願(生緑様式第1号)」の提出
2.「生産緑地に係る主たる従事者についての証明書」の受け取り
3.「生産緑地買取申出書(生緑様式第2号)」で買い取りをお願いするか、あっせんしてもらう

というような流れになります。

しかし、「この土地は先祖代々の土地なので、売るのではなく保有しておきたい」と思った場合にはどうすれば良いでしょうか。実は、その場合でも「生産緑地買取申出書(生緑様式第2号)」を市役所に提出し、買い取りをお願いするという手続きを踏まなければなりません。つまりこれは逃れられない絶対ルートということです。

生産緑地買取申出書を受け取った市区町村は、申請された農地を買い取るのか否かを検討し、30日以内に郵送で結果が通知されます。そのとき、管轄となる地方自治体で買い取りが見送られると、農業委員会によって生産緑地での新たな農業従事希望者をあっせんすることになります。あっせんが成立すると売買契約へと進み、申請者は土地を売却し、新しく購入した方によって農地は生産緑地として維持管理されていくという流れになります。

また、あっせんが不成立となった場合には、「行為制限解除通知書」が申請者に郵送されることで、生産緑地の指定が解除され、一般の農地としての扱いに変更となります。申請者の利益を守るうえでも、買い取りの申請から3カ月以内に結果が出なければ指定は解除されたとみなされます。

指定解除がされると、一般の農地と同様に扱われますので、市街化区域内の農地は「届出」のみで宅地転用することができるようになります。

したがって、「そもそも売る気がない」という場合でも、ここまでの流れは法で定められたルートとなり、提示された金額で売るか、そうでないのならば「その金額では売れない」と返事をして、交渉を不調に終わらせるかというどちらかの選択をすることとなるわけです。

そして最も大切なポイントはやはり、生産緑地を解除すると、これまで受けていた相続税の猶予分を、延滞利息を付けて支払う必要があるということです。

特定生産緑地とは何か

ハリー&ネリー

そういえばうちのおじいちゃんの土地は「特定生産緑地」になったらしいよ。だけど特定生産緑地って何?普通の生産緑地とどう違うの?

特定生産緑地とは、30年の指定期間を10年延長した生産緑地のことだよ。その違いを一緒にみていこうね

福来郎

ここで、最近話題になっている「特定生産緑地」について覚えておく必要があります。特定生産緑地とは、30年の指定期間を10年延長した生産緑地のことです。実は、これはかなり気を付けなければならない制度です。

まず1つ目に、30年の指定期間が過ぎる「前」に、特定生産緑地の指定を受けるかどうかを決めなければならないということ。2つ目に、特定生産緑地の指定を受けないと、生産緑地の制限を受けたまま、なぜか固定資産税・都市計画税は宅地並みに課税され、しかも次世代の方の相続税の納税猶予は適用されないというほぼメリットのない状態に突入してしまうということです。

ですから、アドバイスをする専門家の側も、その辺りの仕組みも分かった上で生産緑地の指定期間の期限を迎えた方や生産緑地を相続することとなった方にアドバイスをする必要があるわけです。

特に相続人が生産緑地を引き継いではみたものの、やっぱり農業を継続することが困難になったというような状況では、相続税の猶予を失って課税されることになります。そこには猶予期間中に発生した利息分も加算されることとなっています。

都市農地貸借円滑化法とは何か

ハリー&ネリー

生産緑地を貸すことってできるの?

できるようになったんだよ。これを上手に利用することができれば強い武器になるね

福来郎

さて上述のように平成30年に法律が改正されて、生産緑地は貸借が可能となりました。そして生産緑地を貸したとしても相続税の納税猶予は変わらず受けることができます。したがって、そこで農業をしていた主たる農業従事者が、「正直農業しんどくなってきた」という場合等には、土地を貸すことも選択肢にいれることができるようになったわけです。

貸借のやり方は大きく分けて2パターンがあります。

農業をやりたい方に直接貸す

農業をやりたい方にダイレクトに貸すことができます。この場合は農業をやりたい方が農業経営計画を市区町村の農業委員会に提出してOKをもらっていなければなりません。実務的にいうと、一般の農地の貸借と同じく、既に農業をやっている方、又は東京でいうと農業研修センターの卒業生であるという方が対象となります。

よって、例えば「俺、脱サラして農業やるわ」という方が自作の農業経営計画をもってきても市長からの認定は得られないので、そういう方には農地を貸すことはできないということになります。

市民農園として貸す

市民農園として貸すパターンもあります。自分が貸しても良いですし、広く一般市民に貸したいという事業者(市民農園開設者)に貸すという形をとることもできます。

この市民農園開設者に農業経験者でなければならないというような要件は求められていません。ただその代わり、より詳細な事業計画が農業委員会によって求められます。具体的にどのようなシステムで市民農園として貸し出すのか、付随するサービスの内容は適切かということが総合的に判断されて、認可されるかどうかが決まります。こちらの方はより、行政に広い裁量があるといえるでしょう。

生産緑地に建てられる建物

また、同法の改正のタイミングで生産緑地に建てられる建物の範囲が広くなりました。具体的には

〇農作物等を原材料に使用する製造・加工施設(ジャム等の製造施設など)

〇農作物等や製造・加工した商品を販売する店舗(直売所など)

〇農作物等を材料として使用する飲食店(農家レストランなど)

です。

ケース別、不動産所有者は何を選択すべきか

というわけで、ここまでざっと生産緑地とそれをとりまく現在の状況を学んできたわけですが、現在の生産緑地の所有者は、その土地を特定生産緑地とするか、生産緑地として継続するか、あるいは買い取り申し出を出すかを選択するよう、各市区町村から通知を受けている最中です。

あなたが実際に農業をやっていらっしゃる方であろうと、それを相続した方であろうと、直面する問題とその考え方は基本的に共通となります。いずれの場合でも、3つの選択肢が目の前にあるはずです。その3つとはつまり、

(1)生産緑地を継続するべきか

(2)生産緑地を解除するべきか

(3)一部だけ生産緑地を解除するべきか

というものです。

生産緑地を継続する場合

ケースとしては、主たる農業従事者だったお父さんが亡くなったけど、子供が農地を相続した場合や、夫婦二人で農業をしていたけども一方が亡くなって農地を相続することになったというような場合があることでしょう。

もちろん主たる農業従事者が亡くなったことによって、生産緑地の買い取り申し出をする資格は得られるわけですが、そもそも農業を続けていきたいと思っている場合や、単に忙しかったり手続きが面倒だったりして期限を過ぎてしまったというような場合には、生産緑地として土地を保有することになります。

この場合もちろん相続税の猶予は継続され、固定資産税等は農地評価になります。つまり市街化区域内の農地の100分の1です。これが大きなメリットです。そしてこの場合のデメリットは、ずばり、ほぼ強制的に農業を続けなければならないということです。

例えば相続人自身の年齢や健康状態、そして農業経験や家族の理解が問題になることが多くなります。

実務では、ご主人が亡くなって高齢の奥様が土地を相続して一人で農業をしていくことになったとか、息子さんがいらっしゃって農業をやっても良いかなと思っているが果たして農業のノウハウはどうなのか。また息子さんは良いけど嫁は違う考え方とか、そういったことが問題になりがちです。

なんといっても、特定生産緑地なら指定を受けてから10年、生産緑地なら指定を受けてから30年、農業を続ける義務があるわけですから、考えるべきはその時その瞬間よりも、もっと長期的に「農業を続けていけるのかどうか」ということなのです。

問題なく今後10年なり30年なり農業を継続していけるのであれば、それは最高のストーリーです。しかしそうではない場合も当然あります。

このような場合には、①生産緑地を貸す②労働負担の少ない作物を作るという道のいずれかを選択するとよいでしょう。

生産緑地を貸すという道を考える

既に見てきたように、生産緑地を貸すことで相続税の納税猶予を受けつつ、土地を保有し続けることができます。

生産緑地の借り手となるのは、自分で農業をやる方か、市民農園事業者となります。なお自分で市民農園を開園することもできます。ただこの場合、貸主が年間1割以上、農業に従事しなければいけないという決まりがあります。

いずれの場合も、市区町村の農業委員会から認定を受けることが必要です。したがって、貸すという選択肢を選ぶに当たっては各市区町村の農業課に事前相談をしておくことが大切です。

なお、借り手は、基本的には自分でみつけてこなければなりません。行政が能動的に動いてくれるわけではありませんので注意が必要です。借り手を見つけるためには農地バンクに登録したり、それぞれの地区の農業委員さんに声をかけてもらったりといった、地域のネットワークを活用する必要があります。

しかしご承知のように、農地をどうするかという問題を抱えている農家はかなり増えてきていて、なかなか難しく時間もかかるので、まずは所有者自身が市民農園開設者となって生産緑地の区画を貸し、それと並行して全体を借りてくれる方を探していくという道を取るのが現実的です。

なお自治体によっては、生産緑地の貸し出しを広報でお知らせしてくれるなどのお手伝いをしてくれるところもありますので、役所で相談してみられることをオススメします。

労働負担の少ない作物を作るという道を考える

生産緑地を貸すつもりがなかったり、貸したいと思っていても借り手がみつからなかったりすることもあります。

その場合は、なるべく労働負担の少ない作物を作るという方法で生産緑地を維持していくことが現実的です。ある農家の方は年老いたおばあちゃん一人でもできるように、それまで作っていた作物を止めて、手間のかからない作物をひたすら植えるという方針に切り替えたそうです。

生産緑地を解除する場合

タイミングが合えば、生産緑地を解除する方が良い場合があります。

既に学んできたとおり、主たる農業従者の死亡や故障、あるいは生産緑地の指定がされてから30年が経過するタイミング、または特別生産緑地に指定されてから10年が経過するタイミングであれば、市区町村に買取申し出を行い、不調となれば、新たな農業経営者へのあっせんが行われます。それもまた不調となれば、買い取り申し出を行った時から3か月経過した時点で、生産緑地の縛りが外れることになります。これで土地の開発や売買ができるようになります。

しかし、この場合は大前提として猶予を受けた分の納税が必要となり、もちろん農地転用を行い宅地にすれば宅地としての課税になります。したがって生産緑地を解除するならば

①まずは猶予された相続税と利息分がいくらになるのかを把握する

②次に生産緑地が「市街地農地」あるいは「宅地」等に転用された場合の固定資産税・都市計画税がいくらになるのかを把握する

③そして生産緑地を宅地として売却した場合の時価と、その土地を最有効利用した場合の予想賃料を把握する

という3点を考えてから、実行することになります。わりと手間がかかりますので、生産緑地の制度を熟知していて、農業委員会や税理士との交渉も無料かつワンストップでやってくれる宅建業者に依頼されると、最も楽で安価に済みます。東京都内の生産緑地であればこちらでも相談に乗れます。

一部だけ生産緑地を解除する

 現在生産緑地して指定されている土地の一部について、生産緑地の指定を解除することができる場合があります。例えば夫婦二人で農業をやってきたけど、相続が発生して、一人では広い畑を維持できないというようなケースもあることでしょう。そして仕方なく一人で畑をやっていたところ、ちょうどタイミング的に生産緑地の期限が切れたというような場合。そのような場合には、一部だけ生産緑地を解除するという選択肢もあります。

この場合には、残る生産緑地が必ず300㎡以上でなければなりません。生産緑地の最低面積(下限)が300㎡だからです。またほとんどの場合で納税猶予を受けているでしょうから、その場合には、税務署に納税猶予を受けるための担保として差し入れている土地があるはずなので、解除後に残る生産緑地がその担保評価を下回ることがないように解除しなければなりません。

場合によっては筆を上手に分ける必要もありそうです。それができないのであれば猶予分の税を納税して全面解除ということになります。

ということで、生産緑地の不動産を相続する場合にとることができるパターンを3つご紹介しました。ここまで見てきて分かるように、システムが非常に複雑で、何を選択するにしても、考えなければならないことがたくさんあります。

たいていの方にとっては、一人で取り組むことができる限度を超えていると思われるので、制度に精通した専門家のチームを組んで取り組むことが大切です。

遺産を相続した場合にどうすればよいか

ハリー&ネリー

僕たちのパパが、おじいちゃんから生産緑地を相続することになったらどうしたら良いのかな

それでは、生産緑地を相続することになった時の具体的な動きをみておこうね

福来郎

登記

生産緑地の場合、生産緑地や特定生産緑地を継続する場合と、解除する場合のどちらを選択するにしても不動産の所有権移転登記と農業委員会への相続の届け出の手続きが必要になります。まずこれを行ってから、生産緑地の指定を解除したい場合は、買取り申出を行うという流れになります。

所有権移転登記は、その不動産の所在地の管轄法務局に登記申請書を提出して行うことになります。申請書に添付が必要な書類は次の5つです。

①被相続人の戸籍謄本
②相続人全員の戸籍謄本
③相続人全員の住民票
④固定資産税評価証明書
⑤遺言書または遺産分割協議書

まずここで、きちんと登記を済ませることが何にしても大前提のスタートラインとなります。お手伝いをできる専門家は司法書士となります。

農業委員会への相続の届け出

農業委員会への届け出も必ず行わなければなりません。現在は、おおむね10か月以内に届け出る「義務」となっており、怠ると「過料」です。農地のある市区町村の農業委員会に「農地法第3条の3第1項の規定による届出書」を提出して行います。

難しい書類ではありませんが、それゆえに忘れがちなので注意が必要です。お手伝いをできる専門家は宅建士、税理士、行政書士です。

相続放棄の場合

生産緑地について相続放棄を行ったとしても、自動的に生産緑地の規制が無くなって他の一般の土地のように相続財産管理人が処分して換金するという手順に進むことはできません。必ず市区町村への買い取り申し出という「絶対ルート」を通ることになります。

実務的な手続きを行うのが相続財産管理人となるのか、それとも旧相続人となるのかは、市区町村の担当者レベルでは現状把握しきれていないようです。お手伝いできる専門家は弁護士です。なお相続放棄の仕組みや流れについてはこちらの動画をどうぞ。

相続税の申告

相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、相続税の申告と納税を行わなければなりません。と同時に相続税の納税猶予を受けるのであれば、その手続きを行っていきます。したがってそれまでには、遺産分割協議を終わらせ、生産緑地である農地を誰が取得するのかを決めておかねばなりません。

もちろん相続税の申告が必要なのは、 その課税価額の合計が基礎控除額を超える人となります。申告に当たっては、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に、

①申告書

②相続の開始から10日以上後に作成された戸籍謄本

③遺言書の写しか遺産分割協議書の写し

④相続人全員の印鑑証明

をもって申告する必要があります。

これに加えて、納税猶予を受けるには、

⑤農業委員会に申請して交付を受けた「適格者証明書」

⑥担保提供書(納税猶予を受けるための担保となる土地です。納税猶予を受けようとする生産緑地である必要はなく、別の土地でも構いません)

⑦都市農地貸し付けを行っている場合には、認定都市農地貸し付けに関する届出書、及びその添付書類

を提出する必要があります。お手伝いできる専門家は税理士です。特に納税猶予を受けている場合にはこれらの資料を一人でそろえていくのはとても骨が折れますので、税理士に動いてもらう方が良いでしょう。

納税猶予期間中にすべきこと(3年に1回)

納税猶予を受けている場合には、3年に1回、納税猶予の継続届出書を提出する必要があります。これには「納税猶予を受けた農地で、きちんと農業を頑張っています」と報告する意味合いがあります。これを怠りますと、提出期限の翌日から2ヶ月を経過する日に納税猶予の期限が確定し(つまり猶予が終わる日が決まるということです)、猶予されていた税額を利子税と共に支払うことになります。

さて、この場合提出する書類は下記のとおりです。

①相続税の納税猶予の継続届出書

②特例農地の移動明細書

③農業を引き続き行っている旨の農業委員会の証明書

④特例農地に係る農業経営に関する明細書

⑤都市農地貸し付けを行っている場合には、その明細書と農業委員会の証明書

この場合にもやはり、生産緑地のシステムを熟知した税理士を使うと便利です。

まとめ

以上で、生産緑地の基本とそこに相続が発生した時の流れを学びました。まず初めにしなければならないことは、特定生産緑地を維持して農業を継続していく気持ちとそれを支える体力があるかどうかを慎重に検討することです。

仮に今は良かったとしても5年後、10年後、自分自身も家族の状況も変わってきます。

今後、家族に訪れるそれぞれのステージで必要となるものは大きく変わっていきますので、生産緑地の地主にとっては単に今電卓を弾いて何をすることが有利なのかを考えるよりも、より将来のステージで必要になるものをアドバイスを受けながら考えていくことが大切なことになります。そしてアドバイスする側も、先を念頭に置いて何をすべきかアドバイスできるようにならなければなりません。

この記事がお役に立てれば嬉しいです。

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