
不要な遺産を相続しないための「相続放棄」という手続きがありますが、特に不動産が含まれていると、「放棄したのに責任が残る」というケースが多くあります。この記事では、相続放棄した不動産をどのように手放せるのか、また注意すべき点について、民法改正も踏まえて解説します。
目次
- 相続放棄とは?不動産との関係性を理解する
- 相続放棄した不動産を手放すための具体的な方法
- 相続放棄後の不動産でよくあるトラブルと対策
- 相続放棄した不動産に関する注意点まとめ
- 困ったときは専門家に相談を
- 相続土地国庫帰属制度と相続財産清算人の比較
- まとめ
- 💬相続放棄後の不動産でお困りの方へ
相続放棄とは?不動産との関係性を理解する
相続放棄(そうぞくほうき)とは、被相続人(亡くなった方)の遺産を相続しないことを家庭裁判所に申述する手続きです。これにより、プラスの財産もマイナスの財産(借金など)も、「初めから相続人ではなかった」とみなされる法的効果があります。
しかし、特に注意したいのが不動産(ふどうさん)です。相続放棄をしても、不動産の所有権は自動的に誰かに移るわけではありません。不動産が放置されると、管理不全状態となり、近隣住民や環境に悪影響を及ぼす可能性があります。
こうした理由から、民法では相続放棄をした場合でも一定の責任が残る場合があると規定しています。多くの方が「相続放棄をしたから完全に関係なくなった」と思いがちですが、実はそうではないのです。
相続放棄しても不動産の責任が残る?その理由と改正点
相続放棄をしても不動産に関する責任が残る理由は主に2つあります:
- 社会的影響の防止:不動産が放置されることで近隣住民や環境に悪影響が及ぶのを防ぐため
- 円滑な財産承継の確保:次の管理者が現れるまでの法的空白状態を防ぐため
2023年民法改正のポイント
2023年4月(令和5年4月)の民法改正により、相続放棄した人の不動産に対する責任が明確化されました。改正前は「管理義務」という表現でしたが、改正後は「保存義務」という概念に変わりました。
改正民法では、相続放棄時に不動産を現に占有(せんゆう)していた場合、次の相続人または相続財産清算人(そうぞくざいさんせいさんにん、旧:相続財産管理人)に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を「保存する義務」を負うと明確に規定されました。
保存義務と管理責任の違いとは?
保存義務(ほぞんぎむ):自分の財産と同じ程度の注意をもって財産の価値を維持すること。不動産であれば、建物の倒壊防止や敷地の最低限の管理などが含まれます。
管理責任(かんりせきにん):一般的な管理行為として、不動産の修繕や有効活用、賃貸などより積極的な行為も含まれるより広い概念です。
相続放棄をすると、法的には「管理責任」はなくなりますが、「保存義務」は一定期間残ります。保存義務を怠ると、損害賠償請求を受ける可能性もあるため注意が必要です。
相続放棄した不動産を手放すための具体的な方法
相続放棄した不動産を手放す主な方法は以下の4つです:
- 次順位の相続人に引き継いでもらう
- 相続土地国庫帰属制度を利用する
- 相続財産清算人を選任してもらう
- 自治体への寄付や第三者への譲渡を検討する
それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。
相続土地国庫帰属制度の利用
制度の概要とメリット・デメリット
相続土地国庫帰属制度(そうぞくとちこっこきぞくせいど)は、2023年4月27日から始まった制度で、相続または遺贈(いぞう)によって取得した土地を、一定の要件を満たす場合に国庫に引き渡せる仕組みです。
メリット:
- 土地の管理負担から完全に解放される
- 固定資産税などの支払い義務がなくなる
- 相続財産清算人選任よりも費用が安い場合が多い
デメリット:
- 対象となる土地に厳しい条件がある
- 申請から承認までに時間がかかる(数ヶ月~1年程度)
- 審査手数料と負担金が必要
申請の要件と手続きの流れ
申請要件:
- 相続または遺贈により取得した土地であること
- 建物がないこと
- 担保権や使用収益権が設定されていないこと
- 土壌汚染や埋設物がないこと
- 境界が明確であること
- 管理や処分に過分の費用がかからないこと
お気づきのように、更地かつ、境界確定もしっかりできている、その他権利行使を邪魔する要素も全くない、きれいな土地である必要があることが分かります。
手続きの流れ:
- 法務局に事前相談
- 申請書と必要書類の準備・提出
- 法務局による審査(現地調査含む)
- 審査結果通知
- 承認の場合、負担金納付
- 所有権移転登記
費用(審査手数料・負担金)と期間
審査手数料:土地1筆につき14,000円
負担金:
- 原則として10年分の管理費用相当額(20万円)
- 土地の種類や面積により変動する場合あり
- 宅地:200m²以下は20万円、200m²超は40万円
- 農地:200m²以下は27万円、200m²超は54万円
- 森林:1,000m²以下は16万円、1,000m²超は32万円
期間:申請から承認まで数ヶ月~1年程度
相続財産清算人の選任
選任の流れと必要書類
相続財産清算人(そうぞくざいさんせいさんにん)は、相続人全員が相続放棄した場合などに、遺産を管理・処分するために家庭裁判所が選任する人です。以前は「相続財産管理人」と呼ばれていました。
選任の流れ:
- 家庭裁判所に申立て(申立人は利害関係人)
- 裁判所による審査
- 清算人選任決定
- 清算人による管理開始
- 相続債権者への弁済
- 残余財産の処分(国庫帰属)
必要書類:
- 申立書
- 被相続人の除籍謄本・住民票除票
- 相続人全員の相続放棄申述受理証明書
- 不動産登記簿謄本
- 申立人の住民票
- 予納金の納付書
報酬・費用の目安
相続財産清算人の選任には以下の費用がかかります:
予納金:数十万円~百万円程度(遺産の規模や複雑さによる) 清算人への報酬:弁護士や司法書士が選任される場合が多く、遺産から支払われますが、遺産が少ない場合は申立人負担となることも
自治体への寄付・第三者への譲渡は可能?
自治体への寄付: 自治体(市区町村)に不動産を寄付できる場合もありますが、受け入れ条件は厳しいのが実情です。多くの自治体では、公共性が高く、将来的な維持管理コストが低い土地でなければ寄付を受け付けないことが多いです。寄付を検討する場合は、事前に自治体の担当部署に相談してみましょう。
第三者への譲渡: 相続放棄した不動産を第三者に直接譲渡することはできません(所有権がないため)。他の相続人がいる場合は、その相続人と協議の上、譲渡手続きを進める必要があります。全員が相続放棄している場合は、相続財産清算人が家庭裁判所の許可を得て譲渡することもありえます。
相続放棄後の不動産でよくあるトラブルと対策
相続放棄後の不動産に関連して、以下のようなトラブルが発生することがあります。
ゴミ屋敷化と近隣住民からのクレーム
相続放棄した実家などが管理されないまま「ゴミ屋敷」化すると、悪臭や害虫発生などで近隣住民からクレームが発生することがあります。場合によっては、近隣住民から訴訟を起こされることもあります。
対策:
- 最低限の管理(草刈り、ゴミ撤去など)を定期的に行う
- 第三者による見回りサービスの利用を検討
- 早めに不動産を手放す手続きを進める
行政代執行と費用請求のリスク
放置された不動産が老朽化して倒壊の危険性がある場合、「特定空き家(とくていあきや)」に指定され、自治体からの命令に従わないと、行政代執行(ぎょうせいだいしっこう)により強制的に解体や修繕が行われ、その費用が請求されることがあります。
具体例: 横浜市では、ゴミが堆積し危険な状態にあった空き家に対して行政代執行による撤去を行い、所有者に数百万円の費用が請求されたケースがあります。
対策:
- 早めに不動産の状態を確認し、危険な状態であれば対処する
- 自治体からの通知や命令には速やかに対応する
- 法的責任が残っている間は定期的な見回りを行う
相続放棄が無効になるNG行動とは
相続放棄をした後でも、以下のような行為を行うと「単純承認(たんじゅうしょうにん)」とみなされ、相続放棄が無効になることがあります。
- 相続財産(不動産など)を処分すること
- 被相続人の預貯金を引き出して使うこと
- 相続財産を隠匿(いんとく)すること
注意点: 相続放棄の手続きを始める前や手続き中、また手続き後も、相続財産には基本的に手を触れないようにしましょう。必要な保存行為(雨漏りの修理など)は問題ありませんが、それを超える行為は慎重に判断する必要があります。
相続放棄した不動産に関する注意点まとめ
相続放棄の期限と手続きの注意点
相続放棄には、相続の開始を知った時から3ヶ月以内という期限があります。被相続人が亡くなったことを知った日や、自分が相続人になったことを知った日から起算します。
手続きの流れ:
- 被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に申述する
- 必要書類を提出する(被相続人の除籍謄本、申述人の戸籍謄本など)
- 申述受理の決定を待つ
- 申述受理証明書を取得する
注意点:
- 3ヶ月を過ぎると原則として相続放棄はできなくなる
- 「相続放棄の申述」と「申述の受理」は別物(申述しただけでは完了しない)
- 複数の相続人がいる場合、各自が個別に手続きする必要がある
不用意な財産処分が招くリスク
相続放棄をした後も、不用意に財産に関わると様々なリスクがあります:
- 相続放棄が無効になる(単純承認とみなされる)
- 他の相続人とのトラブルに発展する
- 債権者から債務の弁済を求められる可能性がある
具体例: 相続放棄後に被相続人の家にあった物品を処分したり、家を売却したりすると、相続放棄が無効になり、債務も含めてすべての相続財産を引き継ぐことになる場合があります。
他の相続人と連携を取ることの重要性
相続放棄をする場合でも、他の相続人と連携を取ることが重要です:
- 誰が相続放棄するのか情報共有しておく
- 不動産の保存義務を引き継ぐ順番を相談しておく
- 共同で相続財産清算人の選任など対策を検討する
注意点: 他の相続人に知らせずに相続放棄すると、次順位の相続人が突然の管理義務を負うことになり、トラブルの原因となります。事前の情報共有が大切です。
困ったときは専門家に相談を
司法書士・行政書士・弁護士、それぞれの相談ポイント
相続放棄や不動産の処分については、専門家に相談することをお勧めします。相談先によって得意分野が異なります:
司法書士(しほうしょし):
- 相続放棄の申述手続き
- 不動産の名義変更登記
- 相続財産清算人選任の申立て
- 相続土地国庫帰属制度の申請手続き
行政書士(ぎょうせいしょし):
- 役所への各種申請手続き
- 自治体との交渉(寄付など)
- 遺産に関する書類の整理
弁護士(べんごし):
- 複雑な相続トラブル
- 相続放棄後の不動産に関する訴訟対応
- 債権者とのトラブル解決
相続放棄と不動産処分の方法は一人ひとりの状況によって最適な選択肢が異なります。不安な点は早めに専門家に相談し、適切な対応を取りましょう。
相続土地国庫帰属制度と相続財産清算人の比較
両制度の主な違いを比較表で示します。
項目 | 相続土地国庫帰属制度 | 相続財産清算人 |
---|---|---|
対象財産 | 土地のみ(建物なし) | すべての相続財産 |
申請/申立先 | 法務局 | 家庭裁判所 |
費用 | 審査手数料14,000円+負担金(10〜54万円) | 予納金(数十万〜百万円程度) |
期間 | 数ヶ月〜1年程度 | 1年以上かかることも多い |
条件 | 建物なし、担保権なし、境界明確など厳格な条件あり | 特に財産そのものへの条件はない |
メリット | 比較的費用が安い場合が多い | すべての相続財産を処理できる |
デメリット | 土地のみが対象で条件も厳しい | 費用が高額になる場合がある |
状況に応じて適切な方法を選ぶことが重要です。専門家のアドバイスも参考にしながら、自分に最適な方法を検討しましょう。
まとめ
相続放棄をしても不動産に関する責任が完全になくなるわけではなく、特に2023年の民法改正で「保存義務」が明確化されました。不動産を手放すには、相続土地国庫帰属制度の利用や相続財産清算人の選任など、いくつかの方法があります。
放置すれば近隣トラブルや行政代執行のリスクもあるため、早めに対策を講じることが重要です。また、専門家に相談し、自分の状況に最適な選択をすることをお勧めします。
相続は一生に何度も経験するものではないため、不安や疑問があれば、遠慮なく専門家に相談しましょう。適切な対応が、あなたの負担を軽減し、将来のトラブルを防ぐことにつながります。
💬相続放棄後の不動産でお困りの方へ
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