
はじめに
八王子市高倉町は、JR八高線「北八王子」駅と国道20号・国道16号が交差する交通要衝に位置する、多摩地域屈指の「住・工・物流」ハイブリッドエリアです。町域の大半が準工業地域に指定されており、住宅・店舗・倉庫・軽工場のすべてが許容される極めて柔軟性の高い土地活用が可能です。
本記事では、政府統計と八王子市内の不動産会社で宅建士として多くの物件活用事例を手がけてきた経験から、高倉町の立地特性を活かした3ステップの収益化戦略をご提案いたします。国勢調査・経済センサスに基づく具体的な収益モデルもご紹介しますので、不動産をおもちの法人・個人投資家の皆様は、ぜひ参考にしてください。ご案内いたしますのは、八王子市住宅相談員、八王子市住まカツ相談員を務めます楽府株式会社の宅地建物取引士です。
なお、前回は隣接する八王子市大和田町・石川町を取り上げました。高倉町にとても影響のある地域で、参考になりますので、併せてご覧ください。
1.用途地域マップと開発指標

それではいつものように、用途地域図を確認してみましょう。不動産有効活用を検討する際、最初に押さえるべきは用途地域の分布です。上記の東京都都市整備局wagmapによる用途地域図をご覧ください。
八王子市高倉町は、町域のほぼ全域が準工業地域(地図上では紫色表示)に指定されています。これは高倉町特有の大きなアドバンテージです。準工業地域では以下の開発指標が適用されます:
項目 | 指標 | 活用のメリット |
---|---|---|
建ぺい率 | 60% | 敷地を効率的に活用可能 |
容積率 | 200% | 3階建て程度の中層建築が可能 |
高さ制限 | 約31m(第2種高度地区) | 十分な階数確保で複合用途開発に最適 |
準防火地域 | 適用 | 耐火構造で保険料軽減効果 |
用途制限 | 危険・環境悪化工場以外可 | 住宅・店舗・倉庫・軽工場すべて許容 |
この「わりと何でも建てられる」自由度の高さが、高倉町の不動産活用における最大の武器となります。住宅専用地域では不可能な、1階を事業用途、上層階を住宅とする複合開発が現実的な選択肢となるのです。
2.国勢調査で見る「住む人」
高倉町の人口動態を詳しく分析(例によって、高倉町を中心とした1次商圏エリアを分析の対象としています)すると、不動産ニーズの変化が明確に読み取れます。国勢調査2020年版によると、一次エリア(半径0.5km圏内)の人口は5,006人、世帯数は2,441世帯で、1世帯あたり人員は2.05人と全国平均を下回る少子高齢化の傾向を示しています。
年齢構成の特徴は以下の通りです:
年齢層 | 人口 | 構成比 | 特徴的ニーズ |
---|---|---|---|
0-14歳 | 571人 | 11.4% | 子育て支援住宅・学童保育施設 |
15-64歳 | 3,224人 | 64.4% | 職住近接・リモートワーク対応住宅 |
65歳以上 | 1,211人 | 24.2% | バリアフリー・終身住宅・見守りサービス |
特に注目すべきは、高齢者率24.2%と子ども率11.4%の組み合わせです。この数値は、従来の核家族向け3LDK・4LDKから、バリアフリー対応の高齢者向け住宅と子育て世帯向けの安全・安心住宅への二極化需要を示唆しています。
また、1世帯あたり人員2.05人という数値は、単身・2人世帯の増加を意味し、1LDK・2LDKの小規模住戸への需要シフトが顕著です。準工業地域の立地特性を活かし、在宅ワーク可能な防音性能を持つ住宅や、小規模事業者向けのSOHO(Small Office Home Office)住宅への需要も高まっています。
そして実際、住環境はどうなのかというと、これが準工業地域と思えないほど恵まれています。例えば買い物施設。オーケーがあり、アルプスがあり、サンワがあり、コープがあり、少し足を延ばせば業務用スーパーやイオンモールまであります。サンドラッグやクリエイトなどドラッグストアも充実しています。病院は東海大学病院と日野市立病院が近隣に存在し、その関連クリニックが周辺に集積しているという状況。交通は、JR北八王子駅はもちろん、八王子駅、豊田駅といった駅も活用可能でどちらに向かうバス便も豊富です。このような恵まれた環境から、外食チェーンも多く出店しており、とにかく住むのに便利です。
3.経済センサスで見る「働く人」
さて、経済センサス2021年調査では、高倉町に206事業所・従業者5,521人が集積していることが判明しています。この従業者数は夜間人口5,006人を上回り、高倉町が周辺地域からの通勤者を受け入れる「昼間人口>夜間人口」の産業拠点であることを示しています。そもそも高倉町は東にコニカミノルタ株式会社&日野自動車、北に巨大物流倉庫群、西にオリンパス株式会社、南に東京都立大学に囲まれた地域です。よってその産業構成を詳しく分析すると、以下の特徴が浮かび上がります。
産業分類 | 従業者数 | 構成比 | 主要業種 |
---|---|---|---|
製造業 | 779人 | 14.1% | 食品製造・金属加工・機械部品 |
運輸・倉庫業 | 548人 | 9.9% | 宅配・EC物流・冷凍倉庫 |
その他サービス業 | 4,194人 | 76.0% | 情報サービス・専門サービス・医療福祉 |
この昼夜間人口比率1.10倍という数値は、複合用途開発の大きな可能性を示しています。具体的には、昼間は事業所・倉庫として機能し、夜間は従業員向け住宅や研修施設として活用する「時間軸を活用した土地利用」が現実的な選択肢となります。
そして製造業14.1%・運輸倉庫業9.9%を合わせた24.0%という比率は、マイクロ物流拠点や小規模製造業向けの賃貸工場・倉庫への強固な需要基盤を示しています。つまり、EC市場の拡大とラストワンマイル配送の重要性が高まる中、高倉町の立地特性は大きな競争優位性を持ちます。
4.交通・物流インフラ
高倉町の不動産有効活用において、交通インフラは最大の競争優位性です。
鉄道アクセスでは、JR八高線「北八王子」駅が徒歩圏内に位置し、JR八王子駅まで約4分、立川駅まで約20分の好アクセスを誇ります。通勤・通学の利便性は抜群で、都心部へも1時間以内でアクセス可能です。
道路交通では、国道20号(甲州街道)が町域を貫通し、すぐお隣を国道16号(東京環状)が通り、中央自動車道八王子ICまで約10分の立地です。特に物流面での優位性は顕著で、下記のような配送時間を実現るわけです。16号で相模原、町田方面へ、そして20号で立川、府中、調布までアクセスすることが容易なのが大きなメリットですね。
配送先 | 所要時間 | 物流拠点としてのメリット |
---|---|---|
東京湾岸エリア | 約60分 | 港湾物流との連携 |
都心部(新宿・渋谷) | 約45分 | 都市部配送の中継点 |
多摩地域各市 | 約30分 | 地域密着配送の拠点 |
埼玉南部 | 約40分 | 広域配送ネットワーク |
ということで、この「鉄道・道路双方へのアクセス良好」という特徴により、従業員の通勤利便性と物流効率性を両立した事業立地が実現可能です。準工業地域の用途制限の緩さと相まって、極めて柔軟な土地活用が可能となります。
5.準工業地域の「最適活用シナリオ」
統計データと交通インフラ分析を踏まえ、高倉町での最適活用シナリオを具体的に検討してみましょう。
活用アイデア | 統計根拠 | 想定利回り | 主要補助金 |
---|---|---|---|
1Fマイクロ物流+上層レジ | 従業者5,521人の通勤需要 | 8–10% | ものづくり企業地域共生推進助成金 |
冷凍・低温倉庫→EC物流拠点 | EC市場拡大+準工業の立地適性 | 9–11% | 物流効率化補助金 |
クラフト工房+SOHOオフィス | 製造779人×創業助成活用 | 7–9% | 創業支援補助金・ものづくり補助 |
1階マイクロ物流+上層住宅の複合開発では、EC配送の「ラストワンマイル」拠点として1階を活用し、2・3階を従業員向け住宅とする開発が最有力です。従業者5,521人という昼間人口と高倉町の交通利便性を活かし、職住近接のメリットを最大化できます。
冷凍・低温倉庫からEC物流拠点への展開では、食品EC市場の拡大と温度管理配送の需要増を背景に、高収益が期待できます。国道20号・16号へのアクセス利便性により、関東一円への配送網構築が可能です。
クラフト工房+SOHOオフィスの複合施設では、製造業従事者779人の独立・創業需要を取り込みます。八王子市の創業支援制度と連携し、小規模事業者向けの「作る・住む・働く」がワンストップで完結する施設運営が可能です。
6.八王子市の補助金・助成金フロー

八王子市の補助金制度を効果的に活用することで、初期投資を大幅に圧縮できます。申請の順序と注意点を整理します。
第一段階:建物改修前の必須手続き
まず建物改修前に「アスベスト調査補助」を申請します。上限25万円の補助により、昭和56年以前の建物の安全性確認が可能です。主な要件は以下の通りです:
- 5年以上除却する予定のないもの
- 平成元年12月31日までに原則として確認済証が交付されたもの
- 延べ面積1,000㎡以上または不特定多数の者の利用のある用途を含む延べ面積300㎡以上のもの
第二段階:用途別改修補助の選択
事業用途の場合は「ものづくり企業地域共生推進助成金」で費用の4分の3、上限375万円の補助が受けられます。準工業地域での製造業・物流業の立地に最適です。
住宅用途の場合は「居住環境整備補助」で5~50万円(工事内容により異なる)のバリアフリー改修補助が利用可能です。
第三段階:セーフティネット住宅登録
住宅確保要配慮者向け住宅を整備する場合、「セーフティネット住宅登録」により最大450万円/戸の改修補助が追加で受けられます。準工業地域でも住宅用途であれば登録可能で、10年間の運営が条件となります。
併用制限と申請順序の注意点
- アスベスト調査は他の補助金との併用可能
- ものづくり補助と居住環境整備補助は併用不可
- セーフティネット住宅は他補助との重複部分は控除
- 必ず八王子市住宅政策課への事前相談が必要
これらの補助金を戦略的に組み合わせることで、初期投資リスクを大幅に軽減しながら、社会貢献性の高い不動産活用が実現できます。
7.まとめ
八王子市高倉町の不動産有効活用において、最大の強みは準工業地域による「住・工・物流」の自由な組み合わせにあります。国勢調査・経済センサスの分析により、職住近接需要、マイクロ物流拠点需要、そして創業・独立支援施設需要が明確に浮かび上がりました。
一棟で完結するハイブリッド戦略が、高倉町での不動産有効活用の鍵となります。1階を事業用途、上層階を住宅用途とする複合開発により、昼夜を通じた安定的な収益確保が可能です。JR北八王子駅と国道20号・16号への優れたアクセス性は、この戦略を支える強固な基盤となります。
さらに、八王子市の充実した補助金制度を組み合わせることで、初期投資リスクを大幅に軽減できます。ただし、各補助金には申請時期や併用制限があるため、専門家との事前相談が不可欠です。
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